#KuToo 痛い靴は履きません

仕事用の靴が古くなったので、数年ぶりに新調しました。ごく普通の黒のパンプスです。最近は事務所への通勤に加え、役所回りなどで出歩く機会が格段に増えたため、がしがし歩けそうなコンフォートシューズにしました。

コンフォートシューズとは、足の健康を意識して作られた靴のこと。一昔前はがっかりなデザインが多かったですが、最近は見た目と履きやすさが両立したコンフォートシューズも増えているようです。

気に入った靴が買えてよかったと思いながらラジオを聞いていたら、ちょうど靴に関する話題が取り上げられていました。#KuToo 運動です。職場でハイヒールやパンプスの着用を強制されることに異議を唱える運動で、靴が苦痛だから、#KuToo。一見、寒いギャグかと思ってしまいましたが、調べてみると実に興味深い。

#KuTooは、靴が苦痛というだけでなく、#Metooをもじった表現でもあります。本家#Metooは性被害の告発運動であったわけですが、#KuTooもジェンダー差別に対する抗議運動で、二つの運動の根っこはつながっています。#Metooを日常生活のレベルで捉え直したのが#KuTooであると言ってもいいかもしれません。

#KuTooも事の発端はSNSでした。ある日本人の女性が、就業規則として5~7cmほどのパンプスを履いて業務することを求められ、足を痛めてしまいました。Twitterで「なんで足怪我しながら仕事しなきゃいけないんだろう」と呟いたところ、多くの共感を呼びました。彼女は署名サイトで約1万8800人分の署名を集め、6月3日に厚生労働省に提出し、ハイヒールやパンプスの強制の禁止を義務づけるよう求めました。

この問題は、衆院厚生労働委員会でも取り上げられ、「義務づけが必要かどうか」と尋ねられたのに対して、厚労相が「社会通念に照らして」という表現でハイヒールやパンプスの強制を事実上容認する見解を示したことがニュースになっています。職場での女性へのパンプス/ヒールの強要とそれに対する抗議―日本特有の問題かと思いきや、英国やカナダ、フィリピンなどでも同じような動きがあり、世界的なムーブメントとなっているようです。

ハイヒールには女性らしいイメージがあります。しかし、意外にも、前近代から近代初期にかけては男女を問わず履かれていました。ハイヒールを履くルイ14世の肖像画はよく知られています。ハイヒールは威厳を保つために格好のアイテムだったようで、赤色を好んで履いていたといわれます。やがて男性が戦争に徴兵されるようになると、男性の靴には機能性が求められるようになり、ハイヒールは女性のアイテムとして考えられるようになりました。

時は巡り、男女ともに外で働くのが当たり前の時代となりました。外で働く人の靴に機能性が重要なのは当然です。それなのに女性だけにパンプスやヒールのような身体的苦痛を伴うアイテムが強制されるというのは、どう考えてもおかしな話です。昨今、女性活躍が叫ばれていますが、そんなものを履いて活躍できる女性がどれほどいるというのでしょう。

強制といっても、就業規則のような形でのあからさまな強制とは限りません。厚労相が口にした「社会通念」による強制の方がやっかいかもしれません。職場では女性はパンプス/ヒールを履くべきだという認識が共有されている職場は普通にあるでしょう。女性自身がその規範を内面化し、痛いにも関わらず、自分から進んでパンプスやハイヒールを履いているかもしれません。このようなソフトな強制は、空気のようなものだけに可視化しにくい傾向にあります。

他人の素足を見る機会はそうそうないものですが、私はスポーツジムの更衣室で何度もぎょっとした経験があります。夜のジムに来る女性(その大半は働く女性です)の中には、足が大きく変形している人がたくさんいます。親指の付け根の骨が横に張り出していたり、薬指や小指が丸まって巻き爪になっていたり。控え目に見ても三人に一人は痛々しい足の持ち主でした。変形の原因は間違いなく長年のパンプスやハイヒールの着用です。こんな状態になるまでパンプスやハイヒールを履くのはなぜなのか、それは誰からの強制なのか?

私自身の足は、あまり変形していません。楽な靴を履き続けてきた結果です。楽な靴というのは人それぞれで、自分の場合、ヒールが全くないのはかえって歩きにくく、今回購入したパンプスも6cmヒールです。ただ、靴にまつわる社会通念をさほど気にせず、「自分の身体が楽かどうか」だけを基準に靴を選んできました。

これが一概に良かったかどうかはわかりません。足を変形させずにすんだ一方で、社会通念の無視による制裁や不利益も被っていると思います。それでも、これからも楽な靴を履き続けるでしょう。シンデレラのガラスの靴でもなければ、ドロシーの魔法の靴でもない、楽に歩けることだけが取り柄の素朴な黒い靴です。それを履いていったいどこへ向かえばいいのか。#KuTooは、痛い靴とは無縁な私にも問いを投げかけています。